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企業型確定拠出年金(企業型DC)は、企業が従業員の老後資産形成を支援する制度です。拠出限度額や税制優遇措置、運用方法、給付の種類などの基本的な仕組みに加え、マッチング拠出や選択制確定拠出年金といった派生的な制度も存在します。
この記事では、企業型確定拠出年金の特徴を詳しく解説し、従業員の老後資産形成に役立つ情報を提供します。
企業型確定拠出年金の基本
ここでは、企業型確定拠出年金の基本的な仕組みや特徴、拠出限度額、税制優遇措置、運用方法、給付の種類などについて概要を説明します。
企業型確定拠出年金の仕組みと特徴
企業型確定拠出年金は、企業が従業員のために一定の掛金を拠出し、従業員が自らの責任で運用を行う確定拠出型の企業年金制度です。企業が拠出した掛金は、従業員ごとに個人別の口座で管理され、従業員は複数の運用商品から自分で選択して運用を行います。
運用結果は、従業員の給付額に直接反映されるため、従業員自身が運用成果を享受できます。また、企業にとっては、掛金の拠出のみが責任となり、運用リスクを負わないというメリットがあります。
拠出限度額と税制優遇措置
企業型確定拠出年金の拠出限度額は、他の企業年金制度の有無によって異なります。
企業型確定拠出年金のみを実施している場合、拠出限度額は月額55,000円となります。一方、確定給付型の企業年金制度を併せて実施している場合、拠出限度額は月額27,500円に減額されます。
従業員が自己負担で掛金を拠出する場合、その掛金は所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となります。これにより、課税所得が減少し、所得税や住民税の負担を軽減することができます。また、運用益に対しては非課税となるため、効率的に資産を蓄積することが可能です。
企業が拠出する掛金は、全額損金算入が認められるため、法人税の節税効果が期待できます。
運用方法と注意点
企業型確定拠出年金では、従業員が自らの判断で運用商品を選択し、運用を行います。
運用商品には、元本確保型の商品や投資信託、保険商品などがあり、従業員はリスクとリターンのバランスを考えて選択することが重要です。
運用商品は、企業が選定した運営管理機関が提供するものに限定され、定期的に運用状況を確認し、必要に応じて運用商品の変更を行うことができます。
ただし、運用結果は従業員の給付額に直接反映されるため、運用リスクについても理解しておく必要があります。
給付の種類と受給要件
企業型確定拠出年金の給付には、老齢給付金、障害給付金、死亡一時金の3種類があり、老齢給付金は、原則60歳以降に受給することができます。受給方法は、年金または一時金から選択できます。
ただし、年金受給を選択した場合、受給期間は5年以上20年以下の範囲内で設定する必要があります。
障害給付金は、障害の程度に応じて受給することができます。また死亡一時金は、加入者が死亡した場合、その遺族が受け取ることができます。いずれの給付も、受給するためには一定の要件を満たす必要があるため、詳細を確認しておくことが重要です。
老齢給付金の要件
- 原則60歳以上で受給可能 加入期間が10年未満の場合、以下のように受給開始年齢が繰り上がる
- 8年以上10年未満:61歳
- 6年以上8年未満:62歳
- 4年以上6年未満:63歳
- 2年以上4年未満:64歳
- 1ヶ月以上2年未満:65歳
- 受給方法は年金または一時金から選択可能
- 年金受給の場合、5年以上20年以下の期間で設定
障害給付金
- 障害認定日に企業型確定拠出年金の加入者または加入者であった方が対象
- 国民年金法等に基づく障害等級1級または2級に該当する程度の障害の状態にあること
- 受給方法は年金または一時金から選択可能
死亡一時金
- 加入者または加入者であった方が死亡した場合、その遺族が受給可能
- 遺族の範囲は、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順
- 受給方法は一時金のみ
これらの受給要件は、企業型確定拠出年金の規約に基づいて適用されます。企業によっては、規約で上記の要件に追加の条件を定めている場合もありますが、基本的な受給要件は法令に従って設定されています。
企業型確定拠出年金とほかの年金制度の比較
企業型確定拠出年金は、ほかの年金制度と比較すると、いくつかの特徴があります。ここでは、個人型確定拠出年金(iDeCo)と確定給付企業年金との比較を通じて、企業型確定拠出年金への理解を深めます。
企業型確定拠出年金とiDeCoの違い
企業型確定拠出年金は、他の年金制度と比較すると、いくつかの特徴があります。ここでは、個人型確定拠出年金(iDeCo)と確定給付企業年金との比較を表にまとめ、簡単に解説します。
○ 企業型確定拠出年金とiDeCoの違い
項目 | 企業型確定拠出年金 | iDeCo |
加入資格 | 企業の従業員のみ加入可能 | 自営業者、公務員、専業主婦など幅広い人が加入可能 |
拠出限度額 | 月額55,000円 ※ほかの年金制度がある場合は27,500円 | 年齢や加入している年金制度によって異なる ※月額23,000円~68,000円 |
拠出者 | 主に企業が拠出 ※従業員拠出も可能 | 個人が拠出 |
企業型確定拠出年金とiDeCoは、ともに確定拠出型の年金制度ですが、加入資格、拠出限度額、拠出者などの点で異なります。企業型確定拠出年金は企業の福利厚生の一環として提供されるのに対し、iDeCoは個人が自助努力で加入する年金制度です。
○ 企業型確定拠出年金と確定給付企業年金の比較
企業型確定拠出年金と比較するもう一つの代表的な企業年金制度が、確定給付企業年金です。確定給付企業年金は、あらかじめ決められた算定方式に基づいて将来の給付額が確定している年金制度で、運用リスクは企業が負担します。以下の表は、企業型確定拠出年金と確定給付企業年金の主な違いを比較しています。
項目 | 企業型確定拠出年金 | 確定給付企業年金 |
給付額の決定方法 | 拠出された掛金と運用益によって給付額が決定 | あらかじめ決められた給付額を企業が保証 |
運用リスク | 加入者が運用リスクを負担 | 企業が運用リスクを負担 |
掛金の拠出 | 定められた掛金を企業が拠出 | 給付額を保証するために必要な掛金を企業が拠出 |
企業型確定拠出年金と確定給付企業年金は、給付額の決定方法、運用リスク、掛金の拠出方法が大きく異なります。企業型確定拠出年金は、加入者自身が運用リスクを負担する代わりに、自分の運用次第で給付額を増やすことができます。一方、確定給付企業年金は、あらかじめ決められた給付額が保証されている分、加入者が運用リスクを負担する必要がありません。
マッチング拠出の概要
企業型確定拠出年金には、「マッチング拠出」と呼ばれる制度があります。これは、従業員が自己負担で掛金を拠出した場合、企業もそれに上乗せして掛金を拠出する仕組みです。ここでは、マッチング拠出の仕組みや特徴、メリットについて解説します。
マッチング拠出とは
マッチング拠出とは、従業員が自己負担で企業型確定拠出年金に掛金を拠出した場合、企業もそれに上乗せして掛金を拠出する制度です。従業員の自助努力を企業が支援することで、老後の資産形成を促進することを目的としています。
マッチング拠出の仕組みと特徴
マッチング拠出では、従業員が自己負担で拠出した掛金に対して、企業が一定の割合または金額で上乗せして拠出します。マッチング拠出の割合や金額は、企業が定めた規約に基づいて決定されます。従業員が自己負担で積極的に掛金を拠出すればするほど、企業からのマッチング拠出も増加するため、老後の資産形成を加速させることができます。
マッチング拠出の上限と税制優遇措置
マッチング拠出には上限があり、企業型確定拠出年金の拠出限度額(月額55,000円または27,500円)から企業の通常の掛金拠出額を差し引いた金額までとなります。また、従業員が自己負担で拠出した掛金は、所得控除(小規模企業共済等掛金控除)の対象となるため、税負担を軽減することができます。
マッチング拠出のメリット
マッチング拠出には、以下のようなメリットがあります。
- 老後の資産形成の促進 従業員の自助努力に企業が上乗せして拠出することで、老後の資産形成を加速させることができます。
- 税制優遇措置の活用 従業員が自己負担で拠出した掛金は、所得控除の対象となるため、税負担を軽減できます。
- 企業の福利厚生の充実 マッチング拠出を導入することで、企業の福利厚生制度を充実させることができます。
マッチング拠出は、従業員の自助努力を企業が支援する制度であり、老後の資産形成を促進するために有効な手段の一つです。企業型確定拠出年金にマッチング拠出制度がある場合は、積極的に活用することをおすすめします。
選択制確定拠出年金の概要
選択制確定拠出年金は、企業型確定拠出年金の一種で、社員が自らの意思で給与の一部を老後の資産形成に充てることができる制度です。社員は拠出金額を自由に決められる一方、会社は費用負担なく福利厚生を充実させることができるなど、双方にメリットがあります。ここでは、選択制確定拠出年金の仕組みやメリット、注意点について詳しく解説します。
選択制確定拠出年金とは
選択制確定拠出年金は、企業型確定拠出年金の一種であり、社員が給与の一部を確定拠出年金に拠出するかどうかを選択できる制度です。社員は自らの意思に基づいて老後の資産形成を行うことができ、一方で会社は新たな費用負担なく企業年金制度を導入できるというメリットがあります。
選択制確定拠出年金の仕組み
選択制確定拠出年金では、会社が労使合意に基づいて、現行の給与の一部を社員が確定拠出年金に拠出できるような給与体系に変更します。拠出金額の上限は、確定拠出年金法で定められている月々の拠出限度額(現在は55,000円)となります。
社員は、拠出限度額の範囲内で、3,000円以上1,000円単位で拠出金額を決定することができます。また、ライフスタイルの変化に応じて、拠出金額を増額または減額することも可能です。
選択制確定拠出年金のメリット
選択制確定拠出年金は、社員と会社の双方にとってメリットのある制度です。社員は自らの意思で老後の資産形成を行えるほか、税制優遇措置や社会保険料の軽減などのメリットを享受できます。一方、会社は新たな費用負担なく福利厚生を充実させることができます。以下に、選択制確定拠出年金のメリットを詳しく見ていきます。
- 社員のメリット
- 自助努力による老後の資産形成が可能
- 税制優遇措置による手取り額の増加
- 社会保険料の軽減
- 転職時などのポータビリティ
- 自らのライフプランに合わせた運用が可能
- 会社のメリット
- 新たな費用負担なく企業年金制度を導入可能
- 社員の老後の資産形成を支援することによる福利厚生の充実
- 法定福利費の軽減
- 企業規模に関わらず導入が可能
これらのメリットから、選択制確定拠出年金は社員の自助努力を支援し、老後の資産形成を促進する有効な手段であると言えます。社員は自分のライフスタイルに合わせて拠出金額を決められるため、無理なく継続的に資産形成を行うことができます。また、会社にとっても、社員の福利厚生を充実させつつ、費用負担を抑えられるメリットがあります。
選択制確定拠出年金の注意点
選択制確定拠出年金は、社員の自助努力を支援し、老後の資産形成を促進する有効な制度ですが、いくつかの注意点があります。
- 原則として60歳までは、資産の引き出しができない
選択制確定拠出年金で積み立てた資産は、原則として60歳までは引き出すことができません。つまり、途中で資金が必要になっても、自由に引き出せないことを理解しておく必要があります。 - 社会保険料の軽減に伴う各種給付への影響がある
選択制確定拠出年金の拠出金は、社会保険料の計算対象とならないため、社会保険料が軽減されます。その結果、将来受け取る年金額や、傷病手当金、出産手当金などの各種給付の額が減少する可能性があります。
これらの注意点を理解した上で、選択制確定拠出年金を活用することが重要です。
選択制確定拠出年金は、社員の自助努力を支援し、老後の資産形成を促進する制度であると言えます。社員自らが将来を考え、準備するという意識を持つことが重要であり、選択制確定拠出年金はそれを後押しする役割を果たしています。ただし、上記の注意点を踏まえ、自分のライフプランに合わせて賢く活用することが求められます。
まとめ
企業型確定拠出年金は、従業員の自助努力を支援し、老後の資産形成を促進する重要な制度です。マッチング拠出と選択制確定拠出年金は、企業型確定拠出年金の中でも特に従業員の主体的な取り組みを後押しするものであり、自分のライフスタイルに合わせて活用することが大切です。企業型確定拠出年金を上手に活用することで、豊かな老後を迎えるための準備を着実に進めていきましょう。
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