年収600万円は上位3割に入る収入だが、家族構成によって生活の実態は大きく異なっている。近年、物価上昇やクレジット利用の増加が目立ち、収入の高さが必ずしも生活の余裕につながっていない状況である。
この記事では、二人以上世帯(二人暮らし・3人家族・4人家族以上)と単身世帯(一人暮らし・独身)それぞれの家計状況を分析し、収入に見合った生活レベルを実現するための具体的な改善策を解説する。
20代で年収600万円は167人に1人の超希少層
年収600万円という水準が、20代にとってどれほど高いハードルなのか。厚生労働省のデータを見ると、その希少性が明確に浮かび上がってくる。年齢による違いを含め、20代で年収600万円に到達することの実態を詳しく見ていこう。
データで見る20代の年収分布
年収600万円台(世帯人員1人当たり所得600~700万円)の割合を年齢層別にみると、20代では0.6%にとどまるのに対し、30代で3.4%、50代では5.0%まで上昇している。
世帯人員1人当たり 所得金額階級 | 全年齢 | 20代以下 | 30代 | 40代 | 50代 |
---|---|---|---|---|---|
1000万円以上 | 0.9% | 0.0% | 0.7% | 0.6% | 1.8% |
900~1000万円 | 0.4% | 0.0% | 0.0% | 0.6% | 0.9% |
800~900万円 | 0.6% | 0.0% | 1.7% | 1.0% | 1.4% |
700~800万円 | 1.3% | 0.0% | 1.7% | 2.1% | 4.0% |
600~700万円 | 1.9% | 0.6% | 3.4% | 2.5% | 5.0% |
500~600万円 | 3.2% | 5.0% | 9.2% | 5.2% | 5.1% |
400~500万円 | 6.6% | 12.6% | 10.3% | 6.9% | 11.0% |
300~400万円 | 11.9% | 17.0% | 14.0% | 12.4% | 18.8% |
200~300万円 | 23.2% | 21.4% | 22.6% | 26.8% | 22.6% |
200万円未満 | 49.8% | 43.4% | 36.3% | 41.9% | 29.4% |
この0.6%という数字を別の角度から見ると、約167人に1人という計算になる。つまり、20代で年収600万円に到達している人は、同世代200人の中でたった1人程度という極めて稀な存在なのである。
20代の年収分布では200万円未満が43.4%と最も高い割合を占めており、400~500万円台は12.6%となっている。年収600万円はその更に上位層に位置する、文字通りのエリート層である。
年収600万円という水準は、年齢層によって到達のしやすさが根本的に異なっており、キャリアの進展に応じて徐々に到達者が増えていく傾向にある。しかし、20代という若い段階でこの水準に到達することは、特別な業界や職種、あるいは卓越したスキルを持つ人だけが成し遂げられると言えるだろう。
20代で年収600万円はどれだけ凄いのか?全世代との比較
厚生労働省の「国民生活基礎調査」のデータによると、年収600~700万円は全世代でも上位32.0%に位置しており、約3人に1人が到達している年収水準である。しかし、これを20代に限定すると、その希少性は格段に跳ね上がる。
所得階級 | 累積割合 | 上位からの割合 |
---|---|---|
2000万円以上 | 1.3% | 上位1.3% |
1500~2000万円 | 3.1% | 上位3.1% |
1200~1500万円 | 6.8% | 上位6.8% |
1100~1200万円 | 9.0% | 上位9.0% |
1000~1100万円 | 11.7% | 上位11.7% |
900~1000万円 | 15.3% | 上位15.3% |
800~900万円 | 19.9% | 上位19.9% |
700~800万円 | 25.7% | 上位25.7% |
600~700万円 | 32.0% | 上位32.0% |
500~600万円 | 40.5% | 上位40.5% |
400~500万円 | 51.2% | 上位51.2% |
300~400万円 | 64.1% | 上位64.1% |
200~300万円 | 78.5% | 上位78.5% |
200万円未満 | 100.0% | - |
全世代で見れば年収600万円は「やや高め」程度の位置づけだが、20代で見れば「超エリート」という表現が適切な水準である。この差は、20代で年収600万円を達成した場合の相対的価値の高さを物語っている。
特徴的なのは、1000万円を超える世帯は全体の約11.7%にとどまり、1500万円以上となると3.1%まで減少することである。つまり、20代で年収600万円を達成すれば、将来的にはさらに高い年収も現実的な目標として見えてくる可能性が高い。
20代で年収600万円台に到達することは、全世代の上位3分の1に入ることを意味し、同世代の中では圧倒的な少数派に位置することになる。これは、キャリアの早期段階で大きなアドバンテージを手にしていることを示している。
20代で年収600万円の実際の生活レベル
20代で年収600万円を達成した場合、実際の生活レベルはどの程度なのだろうか。同じ年収でも、一人暮らしか家族がいるかで生活の実態は大きく変わる。ここでは、単身世帯と二人以上世帯それぞれの家計データを基に、年収600万円台の実際の生活水準を詳しく分析する。

専門家のワンポイントアドバイス:
収入が同じでも、固定費の割合で生活レベルは大きく変わります。
ひとり暮らしの生活費の実態
年収600万円台の単身世帯では、可処分所得が比較的多いため、住環境や趣味への投資に余裕が生まれる。しかし、一人当たりの固定費負担が重く、特に住居費の占める割合が高い点が特徴である。
項目 | 金額(月額) | 割合 |
---|---|---|
勤め先収入 | 373,338円 | - |
消費支出 | 199,944円 | 勤め先収入の54% |
食費 | 43,784円 | 消費支出の22% |
住居費 | 34,101円 | 消費支出の17% |
光熱・水道 | 10,269円 | 消費支出の5% |
交通・通信 | 35,928円 | 消費支出の18% |
教養娯楽 | 23,291円 | 消費支出の12% |
その他 | 52,572円 | 消費支出の26% |
項目 | 金額(月額) | 割合 |
---|---|---|
勤め先収入 | 427,070円 | - |
消費支出 | 233,571円 | 勤め先収入の55% |
食費 | 50,078円 | 消費支出の21% |
住居費 | 54,209円 | 消費支出の23% |
光熱・水道 | 9,848円 | 消費支出の4% |
交通・通信 | 37,512円 | 消費支出の16% |
教養娯楽 | 25,399円 | 消費支出の11% |
その他 | 56,525円 | 消費支出の25% |
このデータは全年代の平均値だが、20代で年収600万円に到達した場合、さらに特徴的な傾向がある。まず、住居費については全年代平均の17-23%よりも高くなる可能性が高い。都市部で働く20代の多くは賃貸住宅に住んでおり、特に東京や大阪などでは家賃が収入の25-30%を占めることも珍しくない。
食費については、全年代平均の21-22%は20代にとって現実的な水準である。外食の頻度が高い傾向があるものの、年収600万円台であれば、栄養バランスを考えた食生活を維持できる。
特に注目すべきは教養娯楽費である。全年代では11-12%だが、20代の場合はスキルアップのための投資や交際費が重要な意味を持つ。この部分に15-20%程度を充てることで、将来のキャリア形成にもつながる投資が可能となる。
二人暮らしの生活費の実態
年収600万円台の二人以上世帯では、世帯人数分の生活費が必要となるため、単身世帯と比べて一人当たりの使える金額は限定される。特に子育て世帯では、教育費の負担も加わってくる。
項目 | 金額(月額) | 割合 |
---|---|---|
勤め先収入 | 402,342円 | - |
消費支出 | 262,991円 | 勤め先収入の65% |
食費 | 71,932円 | 消費支出の27% |
住居費 | 19,442円 | 消費支出の7% |
光熱・水道 | 18,930円 | 消費支出の7% |
交通・通信 | 44,698円 | 消費支出の17% |
教育 | 10,291円 | 消費支出の4% |
教養娯楽 | 25,684円 | 消費支出の10% |
その他 | 72,014円 | 消費支出の28% |
項目 | 金額(月額) | 割合 |
---|---|---|
勤め先収入 | 443,018円 | - |
消費支出 | 272,579円 | 勤め先収入の62% |
食費 | 73,584円 | 消費支出の27% |
住居費 | 17,580円 | 消費支出の6% |
光熱・水道 | 19,704円 | 消費支出の7% |
交通・通信 | 42,197円 | 消費支出の15% |
教育 | 12,897円 | 消費支出の5% |
教養娯楽 | 26,694円 | 消費支出の10% |
その他 | 79,923円 | 消費支出の30% |
20代で結婚・出産を経験し、年収600万円台を達成している場合の生活実態を考えてみよう。全年代平均では住居費が6-7%と低いが、これは住宅ローンを完済した世帯が含まれるためである。20代の場合、住宅ローンの返済中であることが多く、実際の住居費負担は15-20%程度になることが一般的だ。
食費27%という数字は20代世帯にとって参考になる。共働きの場合、調理時間が限られるため中食や外食の比率が高くなりがちだが、年収600万円台であれば家族の健康を維持できる食生活が可能である。
教育費4-5%は、まだ子どもが幼い20代世帯には当てはまらないかもしれない。しかし、将来の教育資金として積み立てを始める時期でもあり、早期からの準備が重要となる。20代のうちに教育資金の基盤を作ることで、子どもの成長に合わせた教育投資が可能になる。
年収600万円で生活が苦しい原因と対策
「年収600万円もあるのに、なぜ生活が苦しいのか?」そんな疑問を抱く人は少なくない。実際のデータを見ると、年収600万円台でも預貯金の取り崩しやクレジット利用が常態化している現実がある。その原因を世帯構成別に詳しく分析していこう。

専門家のワンポイントアドバイス:
預貯金の取り崩しが習慣化すると、将来の資産形成に影響が出てきます。
ひとり暮らしでも年収600万円で生活が苦しい3つの理由
年収600万円の一人暮らしが「なぜか生活が苦しい」と感じる背景には、統計データから見える明確な理由がある。全年代のデータだが、一人暮らしの家計構造から生活を圧迫する要因を分析していこう。
項目 | 金額(月額) | 補足 |
---|---|---|
実収入以外の受取 | 333,376円 | 資産減少や負債増加を伴う収入 |
うち預貯金引出 | 260,665円 | 全体の78% |
うちクレジット購入借入金 | 55,050円 | 全体の17% |
非消費支出 | 80,401円 | 税金・社会保険料など |
項目 | 金額(月額) | 補足 |
---|---|---|
実収入以外の受取 | 305,220円 | 資産減少や負債増加を伴う収入 |
うち預貯金引出 | 234,652円 | 全体の77% |
うちクレジット購入借入金 | 69,408円 | 全体の23% |
非消費支出 | 95,859円 | 税金・社会保険料など |
- 理由1:手取り額の大幅減少 年収600万円でも、非消費支出(税金・社会保険料)が月8-9万円かかる。手取りは月30-35万円程度となり、年収から受ける印象より実際の可処分所得は少ない。
- 理由2:住居費負担の重さ データでは住居費が17-23%だが、これは全国平均である。都市部では家賃相場が高く、実際の負担割合はより高くなる可能性がある。
- 理由3:クレジット依存の増加 650-700万円帯ではクレジット購入借入金の割合が17%から23%に増加している。収入増に伴い生活水準が上がり、クレジット利用が習慣化している様子がうかがえる。
子育て家族でも年収600万円で苦しい理由とは
年収600万円の子育て世帯でも家計が苦しくなる現実がデータに表れている。二人以上世帯の家計構造を見ると、収入だけでは生活費を賄いきれず、預貯金の取り崩しやクレジット利用に頼らざるを得ない状況が浮かび上がってくる。
項目 | 金額(月額) | 補足 |
---|---|---|
実収入以外の受取 | 355,165円 | 資産減少や負債増加を伴う収入 |
うち預貯金引出 | 278,274円 | 全体の78% |
うちクレジット購入借入金 | 69,002円 | 全体の19% |
非消費支出 | 71,515円 | 税金・社会保険料など |
項目 | 金額(月額) | 補足 |
---|---|---|
実収入以外の受取 | 387,338円 | 資産減少や負債増加を伴う収入 |
うち預貯金引出 | 303,874円 | 全体の78% |
うちクレジット購入借入金 | 77,912円 | 全体の20% |
非消費支出 | 81,156円 | 税金・社会保険料など |
実収入以外の受取が月30-40万円という現実
最も注目すべきは「実収入以外の受取」の大きさである。600-650万円帯で月35万円、650-700万円帯では月39万円にも達している。これは預貯金の取り崩し(約78%)とクレジット購入借入金(約20%)が主な内容となっている。
預貯金取り崩しが常態化している家計構造
月々の家計の約30万円を預貯金から取り崩して賄っている状況は、決して健全とは言えない。収入が650-700万円に上がっても、取り崩し額は30万円から約28万円とわずかしか減らず、根本的な家計構造の改善には至っていない。
クレジット購入借入金の増加傾向
収入が上がると、クレジット購入借入金も6.9万円から7.8万円に増加している。これは住居費、教育費、生活の質向上などのための支出が収入の増加以上に膨らんでいることを示している。
非消費支出の負担も重い
税金・社会保険料などの非消費支出も月7-8万円と大きく、手取り収入が額面収入を大幅に下回ることも家計を圧迫する要因となっている。
このように、年収600万円台の子育て世帯は、収入だけでは理想的な生活水準を維持することが困難な状況にある。
年収600万円の20代が実践したいお金の管理術
年収600万円台の世帯でも、収入と支出のバランスが崩れると生活は徐々に苦しくなってくる。ここでは、世帯別の具体的な改善策を提案する。

専門家のワンポイントアドバイス:
生活費の見直しは、まず使途不明金の把握から始めましょう。
固定費の見直しで家計の基盤を整える
年収600万円でも生活が苦しい原因は固定費の割合が高すぎることである。データでは単身世帯の住居費が17-23%、二人以上世帯の食費が27%を占めている。
住居費を収入の20%以下に抑え、通信費の見直しや不要なサブスクリプションの解約を行う。これだけで月2-3万円の削減が可能だ。
クレジット依存を解消し利息負担をゼロにする
データでは年収が上がるとクレジット利用も増加(17%→23%)している。月5-7万円のクレジット利用は年間60-84万円となり、リボ払いなら高い利息が発生する。
現在の借入残高を洗い出し、金利の高いものから優先返済する。リボ払いは一括払いに変更し、2-3年での完済計画を立てることが重要だ。
先取り貯蓄と投資で資産形成を自動化する
預貯金の取り崩しを防ぐには、収入の一部を確実に資産に回す仕組みが必要である。20代なら長期投資でインカムゲインも狙える。
収入の20%(月10万円)を先取り貯蓄し、うち半分を投資信託で積立投資する。iDeCoやNISAを活用し、10年で1,000万円の資産形成を目指す。
まとめ:年収600万円の適正な生活費と貯蓄バランス
年収600万円台は平均的な収入を上回る水準であるが、世帯構成や生活スタイルによって、実際の生活レベルは大きく異なってくる。
二人以上世帯では、食費と交通・通信費で生活費の44%を占めており、これらの支出管理が家計改善の鍵となる。一方、単身世帯では住居費の負担が大きく、収入が増えるほどその傾向が強まっている。
注目すべき点は、どちらの世帯でも預貯金の取り崩しやクレジット購入借入金が増加傾向にあることである。これは、収入のみでは理想の生活水準を維持することが難しい状況を示している。
収入が増えても、それに応じて生活費が増える傾向がみられることから、計画的な家計管理がより一層重要となる。生活費の優先順位づけや、固定費の見直しなど、基本的な家計改善の取り組みを継続することで、年収600万円台の収入を活かした安定的な生活設計が可能となるだろう。
家計改善の具体策を実践し、預貯金の取り崩しやクレジット利用を抑えることで、収入に見合った適切な生活レベルを維持することができる。
長期的な視点での資産形成も視野に入れ、将来に向けた安定的な家計づくりを心がけたい。
よくある質問
- Q年収600万円台でも預貯金を取り崩すのは問題ですか?
- A
計画的な取り崩しなら問題ありませんが、毎月の生活費を補填する目的での取り崩しは要注意です。
- Q単身世帯の住居費が収入の23%というのは高すぎますか?
- A
都市部では珍しくない水準ですが、将来の資産形成を考えると20%以下に抑えることをお勧めします。
- Q二人以上世帯の食費27%は平均的な割合ですか?
- A
やや高めの水準です。まとめ買いや食材の使い切りなど、工夫の余地があります。