2024年からのNISA制度では、つみたて投資枠と成長投資枠を合わせて年間360万円もの非課税投資が可能となった。この投資枠を効率的に使い切ることで、非課税メリットを最大限に活用できるが、必ずしも無理に使い切る必要はない点も重要である。
各証券会社はNISA枠を効率的に使い切るための便利な機能を提供している。ボーナス月設定やNISA枠ぎりぎり注文、課税枠シフト注文など、これらの機能を活用することで、より簡単に投資枠を管理できる。
本記事では、投資枠を使い切るための具体的な方法と、売却後の枠の再利用まで、実践的な活用術を解説する。
NISA枠の基本と使い切るべきかの考え方
NISAの非課税投資枠は無理に使い切る必要はないが、効率的に活用することで非課税メリットを最大化できる。基本的な考え方を整理しよう。
NISA制度における投資枠の仕組み
2024年から始まった新しいNISA制度では、つみたて投資枠(年間120万円)と成長投資枠(年間240万円)の2つの投資枠を併用できるようになった。生涯投資枠は1,800万円(うち成長投資枠は最大1,200万円)だ。
重要なポイントとして、2024年からのNISAは恒久化しているため、当年の非課税枠を使い切れなくても、残った非課税枠は2029年以降に利用することができる。これは「2028年末時点でのNISA投資額(簿価残高)が生涯投資枠(1,800万円)未満である」という条件を満たしている場合に適用される。
項目 | つみたて投資枠 | 成長投資枠 |
---|---|---|
年間投資上限 | 120万円 | 240万円 |
対象商品 | 長期・積立・分散投資に適した投資信託 | 上場株式、投資信託など |
購入方法 | 積立のみ | スポット購入・積立 |
非課税保有期間 | 無期限 | 無期限 |
NISA制度は恒久化されたため、必ずしも当年の投資枠を使い切る必要はない。
投資枠を使い切るメリットとデメリット
投資枠を使い切ることの最大のメリットは、非課税のメリットを最大限に活用できる点だ。特に長期投資の場合、複利効果により税金分の差は大きくなっていく。しかし、投資枠を使い切るために無理な投資判断をするのは逆効果になる可能性もある。
- メリット:非課税枠の最大活用、複利効果の最大化、計画的な資産形成
- デメリット:無理な投資判断のリスク、市場環境を無視した投資の危険性
マネックス証券が指摘するように、必ずしも投資枠を使い切る必要はなく、市場環境や自身の投資計画に合わせた判断が重要である。一方で、SBI証券や楽天証券では、投資枠を効率的に使い切るための機能が充実している点も注目だ。
投資環境と自身の資金計画を考慮したうえで、無理のない範囲で投資枠を活用することが賢明である。
証券会社別の使い切る支援機能の比較
主要証券会社では、NISA枠を効率的に使い切るためのさまざまな機能を提供している。これらの機能を理解し活用することで、より簡単に投資枠を管理できる。
証券会社 | 主な支援機能 | 特徴 |
---|---|---|
SBI証券 | NISA枠ぎりぎり注文 課税枠シフト注文 | 残りの枠で最大限買付 超過分は自動的に課税口座で購入 |
楽天証券 | ボーナス設定 NISA枠優先発注 | 年2回までの増額設定 非課税枠を優先的に使用 |
マネックス証券 | NISA非課税投資枠使い切り 積立設定の柔軟性 | 残りの枠で自動買付 クレジットカードつみたて対応 |
SBI証券の「NISA枠ぎりぎり注文」と「課税枠シフト注文」は、残りの非課税枠を自動で計算して最大限活用できる便利な機能だ。投資可能枠を超過した場合でも、自動的に課税口座での買付に切り替わるため、手間なく投資できる。
各証券会社の支援機能を活用することで、NISA枠の管理と効率的な使い切りが容易になる。

専門家のワンポイントアドバイス:
NISA投資枠の使い切りを考える際は、投資環境と自身の資金計画のバランスが重要です。無理に枠を使い切るよりも、定期的な積立投資に加えて、市場が大きく下落したタイミングでスポット投資するための資金を温存しておくという戦略も検討してみてください。
つみたて投資枠を効率的に使い切る方法
年間120万円のつみたて投資枠を最大限活用するための具体的な方法を見ていこう。
ボーナス月設定を活用して使い切る
つみたて投資枠は毎月の積立投資によって活用するが、年の途中から始めると年間上限の120万円に届かないことがある。そんなときに便利なのが「ボーナス月設定」だ。
ボーナス月設定とは、指定した月に通常より多い金額を積み立てる機能で、多くの証券会社では年に2回まで設定できる。これを活用することで、年間の投資枠を効率的に使い切ることができる。
例えば、7月から毎月5万円の積立を始めた場合、年末までに集まるのは5万円×6ヶ月=30万円となる。残りの90万円をボーナス月設定で補うことで、年間枠を使い切ることができる。
- 証券口座引落による積立設定を選択する
- 月々の積立金額を確認・設定する(例:毎月5万円)
- ボーナス月を1〜2回設定する(例:12月に残りの金額)
- 積立総額が年間120万円を超えないように調整する
ボーナス月設定は楽天証券やマネックス証券など多くの証券会社で利用できるが、クレジットカード決済では利用できないことが多い。
積立タイミングと引落方法の最適化
つみたて投資枠を効率的に使い切るには、積立タイミングと引落方法の最適化も重要である。特に年末近くになると、取引のタイミングによっては当年の枠で購入できない場合がある。
楽天証券の例を見ると、年末のつみたてNISA取引には締切日が設定されている。投信積立で証券口座引落の場合、2024年の非課税投資枠での取引は概ね12月20日(金)頃までとなっている。クレジットカード決済や楽天キャッシュ決済でも同様の締切日が設定されていることが多い。
また積立方法によって締切日が異なる。例えば楽天証券では、投信積立と「かつヨミ®」(米株積立)、日株積立など、商品ごとに締切日が異なるため注意が必要である。特に外国株式は時差の影響もあるため、余裕を持ったスケジュール管理が重要である。
積立設定では買付日も重要なポイントである。月の上旬に設定すると、年末に向けて受渡日が遅いファンドでも、年をまたいでしまうリスクが低減する。楽天証券では「毎月つみたて」の場合、買付日を任意で指定できるサービスもあり、こうした機能を活用するとよい。
年末の投資枠を確実に使い切るためには、11月頃までに翌月以降の積立設定を完了させておくことが重要である。
複数ファンドへの分散と調整方法
つみたて投資枠では、複数のファンドに分散投資することも可能だ。資産クラスや地域などを分散させることでリスク低減が期待できるが、複数ファンドへの投資は枠の管理がやや複雑になる。
各証券会社では、複数ファンドへの積立設定時にも投資枠の管理をサポートしている。例えば、SBI証券の「NISA枠ぎりぎり注文」は複数ファンドがある場合でも残りのNISA枠を自動で計算してくれる。
マネックス証券の例では、「同日に複数の積立買付が行われる場合、『自動つみたて』=『クレジットカードつみたて』=『銀行de自動つみたて』=『ウェブかんたん銀行つみたて』の順に買付されるが、当年の非課税投資枠がなくなると、そのお申込み以降の買付は行われません」としている。
複数ファンドへ分散投資する場合は、優先順位を考慮した設定と定期的な枠の確認が重要である。

専門家のワンポイントアドバイス:
つみたて投資枠を複数のファンドに分散する場合は、各ファンドの積立日を月の上旬・中旬・下旬に分散させるという方法もあります。これにより、市場のタイミング分散効果が得られるだけでなく、年末に向けて柔軟に調整がしやすくなるメリットもあります。
成長投資枠を戦略的に使い切る方法
年間240万円の成長投資枠は、計画的かつ状況に応じた柔軟な投資が重要である。
成長投資枠での株式投資と年末の注意点
成長投資枠では、個別株式や幅広い投資信託に投資できるため、よりアクティブな運用が可能だ。特に1株からでも購入できる点は、高額株式への投資機会を広げている。
SBI証券では、国内株式も外国株式も1株から購入できるサービスを提供しており、「この機会にぜひ残りのNISA枠で株式を買付してみませんか」と案内している。1株ずつでも投資可能なため、枠を細かく使い切ることができる。
ただし、年末に向けては特に注意が必要だ。株式の場合、国内株と外国株で取引時間が異なり、特に外国株は時差の関係で年末の取引可能日がより早く終了する場合がある。
- 国内株式:年末の取引は通常12月30日まで
- 米国株式:クリスマス前後の取引時間に注意
- 中国・アジア株:国・地域によって締切日が異なる
成長投資枠を年末に使い切りたい場合は、各国の休場日や取引時間を事前に確認しておくことが重要である。
証券会社別・商品別の年末締切比較
成長投資枠を年末に使い切るためには、各証券会社の商品別締切日程を把握しておくことが大切だ。特に海外市場の商品は、各国の祝日や時差の影響で取引可能日が国内と異なる。
証券会社 | 商品 | 2024年年末の締切目安 |
---|---|---|
楽天証券 | 国内株式 | 12月26日(木)15:30 |
楽天証券 | 米国株式 | 12月25日(水)午前3:00 |
楽天証券 | 中国株(上海) | 12月24日(火)12:30 |
SBI証券 | 国内株式 | 12月26日(木) |
SBI証券 | 米国株式 | 12月24日(火) |
マネックス証券 | 投資信託 | ファンドにより異なる |
さらに、投資信託の場合は、購入申込日と実際の約定日が異なる場合が多い。特に海外資産を対象とするファンドは、購入から約定までの日数が長くなりがちだ。
楽天証券の場合、投資信託の取引は「申込受付日から起算して4営業日目に受渡の場合」は12月25日(水)が締切となっている。このように、商品によって締切日が大きく異なることに注意が必要だ。
年末に成長投資枠を使い切るには、12月上旬までに投資計画を立て、12月中旬までに執行することが安全である。
市場環境に応じた投資枠活用の判断基準
成長投資枠を使い切るかどうかは、市場環境や個人の投資スタイルに大きく依存する。マネックス証券が指摘するように、必ずしも使い切る必要はなく、質の高い投資判断を優先することも重要だ。
市場が大きく下落している局面では、成長投資枠を積極的に使って割安となった銘柄に投資するチャンスとなる。逆に、市場が高値圏にある場合は、無理に枠を使い切るよりも、分散投資や時間分散を意識した投資が望ましい。
- 市場下落時:積極的に投資枠を活用して割安銘柄を購入
- 市場高値時:時間分散を意識し、一部の枠を翌年に持ち越すことも検討
- 不透明な相場環境:徐々に投資を行い、急激な市場変動に備える
SBI証券の「NISA枠ぎりぎり注文」や「課税枠シフト注文」などの機能は、計画的な投資枠の活用をサポートしてくれるが、投資判断そのものは自分自身で行う必要がある。市場環境や自身の投資方針に合わせた判断が重要だ。
投資枠を使い切ることよりも、適切な投資判断を行うことを優先し、長期的な資産形成を目指すべきである。

専門家のワンポイントアドバイス:
成長投資枠を使い切るかどうか迷った時は、「ドルコスト平均法」の考え方を参考にしてみてください。市場が高いと感じる時は少額ずつ、大きく下落した時はまとまった金額を投資する方法です。この戦略を使えば、高値づかみのリスクを抑えながら、効率的に投資枠を活用できます。
NISA枠の売却と再利用の戦略
NISA枠で購入した商品の売却と枠の再利用について理解し、長期的な視点で活用する方法を考えよう。
枠の再利用の仕組みと注意点
NISA枠で保有している商品を売却した場合、その金額分の投資枠は翌年から再利用できる。ただし、この再利用できる金額は「売却時の金額(時価)」ではなく「購入時の金額(簿価)」であることに注意が必要だ。
例えば、100万円で購入した商品が値上がりして150万円になった時点で売却した場合、翌年に再利用できる枠は150万円ではなく、購入時の100万円分である。逆に、100万円で購入した商品が80万円に値下がりした状態で売却した場合でも、翌年に再利用できる枠は購入時の100万円分となる。
購入金額 | 売却時の価格 | 翌年再利用できる枠 |
---|---|---|
100万円 | 150万円 | 100万円 |
100万円 | 80万円 | 100万円 |
100万円 | 100万円 | 100万円 |
また、重要な注意点として、NISA枠で購入した商品を売却しても、その年のうちに枠の再利用はできない。再利用可能になるのは翌年からだ。この点は各証券会社でも強調されている重要なルールである。
NISA枠の再利用は購入時の金額(簿価)ベースで計算され、再利用できるのは翌年からである。
売却タイミングと再投資の戦略
NISA枠で購入した商品の売却タイミングと再投資の戦略は、市場状況や投資環境、さらには自身の投資方針によって変わってくる。基本的にはNISA枠は長期保有を前提としているが、状況に応じた柔軟な対応も重要だ。
例えば、大幅な値上がりで目標リターンに達した場合や、投資先の魅力が低下した場合は、売却を検討するタイミングになる。売却後の再投資については、翌年の枠の再利用を視野に入れた計画が必要だ。
- 売却を検討するタイミング:目標リターン達成時、投資先の魅力低下時、より魅力的な投資先発見時
- 再投資の戦略:市場の割安感、投資先の成長性、分散投資の観点から判断
- 年末の売却判断:翌年の再利用を考慮し、12月よりも早い時期に検討
SBI証券では「分配金の再投資等で同日中に非課税枠が利用され、残り非課税枠が設定した積立買付金額未満となってしまった場合でも、残り非課税枠の範囲内で買付される機能です(残り非課税枠が最低買入金額を下回る場合は買付されず、当年の非課税投資枠が残ります)」としている。このような機能を活用することで、NISA枠を最大限に使い切ることができる。
売却と再投資は市場環境を考慮しつつ、翌年の枠の再利用を視野に入れた計画的な判断が重要である。
ライフイベントに合わせた枠の活用法
結婚、出産、住宅購入、子どもの進学など、さまざまなライフイベントに合わせてNISA枠の活用方法を見直すことも重要だ。これらのイベントでは資金需要が発生するため、NISA枠で保有している商品の一部を売却することもあるだろう。
例えば、住宅購入の頭金として資金が必要な場合、成長投資枠で保有している株式の一部を売却することが考えられる。この場合、翌年からその売却分の枠が復活するため、住宅購入後の資産形成を再開する際に活用できる。
ライフイベント | NISA枠活用のポイント |
---|---|
結婚・出産 | リスク許容度の見直し、長期投資の継続 |
住宅購入 | 頭金に必要な資金の一部を売却、購入後は枠を再利用 |
子どもの教育資金 | 教育費の支払い時期に合わせた売却計画 |
退職・セミリタイア | リスク許容度を下げ、インカム重視の運用へシフト |
また、マネックス証券が指摘するように、「2024年からのNISAは恒久化しているため、当年の非課税枠を利用しきれなくても、残った非課税枠は2029年以降に利用することができます」という点も考慮すると、無理に使い切る必要はなく、ライフステージに合わせた柔軟な活用が可能だ。
ライフイベントに合わせてNISA枠の活用方法を見直し、長期的な資産形成計画に組み込むことが重要である。

専門家のワンポイントアドバイス:
NISA枠の売却を考える際には、税金面だけでなく将来の資金計画も見据えましょう。特に住宅購入などの大きなライフイベントでは、5年前から少しずつNISA資産を現金化していくなど、計画的な売却が重要です。一度に大量に売却すると、翌年の再利用枠も大きくなりすぎて使いきれない可能性があります。
まとめ:NISA枠を最大限使い切る長期的視点
NISA枠を効率的に使い切るためには、自身の投資方針や市場環境を考慮した計画的なアプローチが重要である。つみたて投資枠と成長投資枠それぞれの特性を理解し、適切に活用することで、非課税メリットを最大化できる。
特に重要なポイントとして、2024年からのNISA制度では未使用の投資枠も2029年以降に利用できる可能性があるため、必ずしも毎年使い切る必要はない。市場環境が良くない時に無理に投資するよりも、投資機会を見極めた質の高い投資判断を優先すべきだ。
各証券会社が提供するNISA枠の使い切りをサポートする機能(ボーナス月設定、NISA枠ぎりぎり注文、課税枠シフト注文など)を活用することで、より効率的に投資枠を管理できる。特に年末に向けては、各証券会社の締切日程を把握し、計画的な投資が重要だ。
NISA枠で購入した商品の売却と枠の再利用についても長期的な視点で戦略を立てることが大切だ。売却後の枠は翌年から簿価ベースで再利用できることを理解し、ライフイベントや市場環境の変化に応じた柔軟な対応を心がけよう。
最終的には、単に投資枠を使い切ることを目的とするのではなく、自身の資産形成目標に合わせた質の高い投資判断を優先し、長期的な視点でNISA制度を活用していくことが重要である。
- QNISA枠を使い切らないと損をしますか?
- A
必ずしもNISA枠を使い切らないことが損になるわけではありません。2024年からのNISA制度では、未使用の投資枠も2029年以降に利用できる可能性があります(2028年末時点での投資額が生涯投資枠未満の場合)。無理に投資して大きな損失を出すよりも、投資機会を見極めた質の高い投資判断を優先することが長期的には有利です。ただし、非課税メリットを最大化するには、可能な範囲で枠を活用することが望ましいでしょう。
- Q年末にNISA枠を使い切るための最終期限はいつですか?
- A
年末にNISA枠を使い切るための最終期限は、証券会社や投資対象によって異なります。一般的に国内株式は12月26日頃、米国株式は12月24〜25日頃が多いですが、投資信託は約定日の関係で12月中旬には購入手続きを完了させるべきケースもあります。年末の取引は各証券会社の締切スケジュールを必ず確認し、余裕をもって12月中旬までに計画を立てることをお勧めします。
- QNISA枠で購入した商品を売却した場合、いつから枠を再利用できますか?
- A
NISA枠で購入した商品を売却した場合、その枠が再利用できるのは翌年からです。例えば2024年に購入した商品を同年中に売却しても、2024年中にその枠を再利用することはできません。2025年1月1日以降に再利用可能となります。また、再利用できる枠の金額は売却時の金額(時価)ではなく、購入時の金額(簿価)になる点に注意が必要です。