確定拠出年金で賢く節税!拠出時・運用時・受給時の税制優遇メリットを具体例で解説

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確定拠出年金は、老後の資産形成を支援する有力な制度です。拠出時の所得控除、運用益の非課税、受給時の控除など、税制上のメリットが多くあります。これらのメリットは、確定給付企業年金、小規模企業共済制度、国民年金基金など、ほかの類似制度でも享受できます。

ここでは、おもに確定拠出年金のメリットについて、具体例を挙げて詳しく説明します。

確定拠出年金の概要とメリット

確定拠出年金は、老後の資産形成を支援する制度であり、拠出時・運用時・受給時の3つの段階で税制優遇が受けられるのが大きな特徴です。

確定拠出年金には、企業型と個人型の2種類があります。企業型は企業が従業員のために設立する年金で、個人型は自営業者や企業年金のない会社員が個人で加入できる年金です。

拠出限度額は、企業型で月額5.5万円(企業と合わせて月額6.6万円)、個人型で月額6.8万円(国民年金基金等との合計で月額6.8万円)となっています。

運用商品は、元本確保型の定期預金や保険商品から、リスクを取って高いリターンを狙う投資信託まで、多様なラインナップが用意されています。

確定拠出年金のメリットは、大きく分けて3つあります。

  1. 拠出時の所得控除:拠出金が所得控除の対象となり、税負担を軽減できる
  2. 運用時の非課税:運用益に対する税金が非課税となり、複利効果で資産が効率的に増加する
  3. 受給時の控除:受取金が退職所得や公的年金等として扱われ、退職金控除や公的年金等控除が適用される

このように、確定拠出年金は税制面でのメリットが大きく、老後の資産形成に有効な手段といえます。以降では、それぞれのメリットについて、具体例を交えて詳しく解説します。

メリット1:拠出時の所得控除

確定拠出年金への拠出金は、一定の限度額まで所得控除の対象となります。所得控除を受けることで、拠出時点での税負担を軽減することができます。これにより、手取り額が増加し、老後の資産形成により多くの資金を回すことが可能となります。なお、確定給付企業年金、小規模企業共済制度、国民年金基金でも、拠出金の全額または一部が所得控除の対象となります。

具体例:年収600万円のケース:拠出した場合としない場合の税金の比較

所得控除のメリット:実際より少額の資金で、老後資金を準備できる。

  1. 企業型DCに加入し、月額2万円を拠出した場合の税金の計算例
    • 年収600万円 – 所得控除48万円 – DC拠出金24万円 = 課税所得528万円
    • 課税所得528万円に対する所得税・住民税:約119万円
  2. 企業型DCに加入せず、月額2万円を拠出しなかった場合の税金の計算例
    • 年収600万円 – 所得控除48万円 = 課税所得552万円
    • 課税所得552万円に対する所得税・住民税:約126万円
企業型DCに加入企業型DCに未加入
年収600万円600万円
所得控除48万円48万円
DC拠出金24万円
課税所得528万円552万円
所得税率20%20%
住民税率10%10%
所得税・住民税約119万円約126万円
税負担軽減額約7万円
※所得控除は、基礎控除48万円のみで算出

企業型DCに拠出することで、年間24万円分を使えないように見えますが、税負担軽減額を考慮すると、17万円(24万円-7万円)となります。加えて、24万円を将来の貯蓄に回していることになります。

所得控除の注意点

選択制の企業型DCでは、従業員が拠出金額を自由に決められる一方で、拠出金額分は給与として受け取ることができないという特徴があります。つまり、選択制の企業型DCに加入している従業員は、拠出金額を増やせば、その分手取り額が減少することになります。

ここで注意が必要なのは、選択制の企業型DCの拠出金は、所得控除の対象とならないことです。これは、拠出金が給与から差し引かれる前に控除されるためです。言い換えると、選択制の企業型DCの拠出金は、課税対象となる所得金額を減らすことはできますが、所得控除によって税負担を直接軽減することはできません。従業員は、この点を理解した上で、拠出金額を設定する必要があります。

一方、個人型DCに加入している国民年金基金加入者は、国民年金基金の掛金も所得控除の対象となります。ただし、確定拠出年金の拠出限度額は、国民年金基金の掛金を含めた金額となるため、注意が必要です。つまり、国民年金基金の掛金額によっては、確定拠出年金への拠出可能額が制限される場合があります。個人型DCに加入する際は、国民年金基金の掛金額を確認し、確定拠出年金の拠出可能額を把握しておくことが大切です。

これらの注意点を理解し、自身の状況に合わせた適切な拠出金額を設定することで、確定拠出年金の所得控除メリットを最大限に活用することができるでしょう。特に、選択制の企業型DCについては、拠出金額が所得控除の対象とならない点を考慮し、手取り額とのバランスを考えた拠出金額の設定が重要です。

メリット2:運用益の非課税

確定拠出年金の運用益は、運用期間中は非課税となります。このため、運用益に対する税金が発生せず、複利効果により資産が効率的に増加します。長期的な運用を行うことで、非課税のメリットを最大限に享受することができます。運用益の非課税は、確定拠出年金の大きな特徴であり、老後の資産形成を支援する重要な制度です。これは、確定給付企業年金、小規模企業共済制度、国民年金基金でも同様です。

複利効果の仕組み

複利効果とは、運用益に対してさらに運用益が発生することで、資産が加速度的に増加していく効果のことです。確定拠出年金では、運用益が非課税となるため、この複利効果がより大きく働きます。

複利効果の仕組みを簡単に説明すると、以下のようになります。

  1. 元本に対して運用益が発生する
  2. 発生した運用益が元本に加算され、新たな元本となる
  3. 新たな元本に対して、さらに運用益が発生する
  4. 発生した運用益が元本に加算され、元本がさらに増加する
  5. 以降、このサイクルが繰り返されることで、資産が加速度的に増加していく

確定拠出年金では、この運用益が非課税となるため、複利効果がより大きく働きます。運用益に課税がある場合と比べて、長期的な運用を行うほど、その差は大きくなります。

次の具体例では、毎月分配型と再投資型の比較を通して、複利効果の力と非課税のメリットを詳しく見ていきましょう。

毎月分配型と再投資型の比較(具体例)

複利効果のメリット:大きな運用成果を得られる

確定拠出年金の運用益非課税のメリットを具体的に理解するために、毎月分配型と再投資型の比較をしてみましょう。ここでは、30年間、毎月5万円ずつ積み立てる場合を想定します。年利は3%、運用益に対する税率は20%とします。

項目毎月分配型再投資型
運用方法運用益を毎月受け取る運用益を再投資して複利効果を得る
30年後の積立額1,800万円(5万円×12ヶ月×30年)1,800万円(5万円×12ヶ月×30年)
30年後の運用益919万円(課税後)1,232万円(受取時に課税)
30年後の総資産2,719万円3,032万円

この比較から、以下のことがわかります。

  1. 再投資型の方が、毎月分配型よりも313万円多い総資産を築くことができる
  2. 再投資型では、運用益が非課税で再投資されるため、複利効果が大きく働く
  3. 毎月分配型では、運用益に毎月課税されるため、複利効果が抑えられてしまう
  4. ただし、再投資型でも、受取時には運用益に課税される

再投資型の場合、30年間は運用益が非課税で再投資されるため、複利効果が大きく働きます。このように、確定拠出年金の運用益非課税のメリットは、長期的な運用において大きな差となって表れます。特に、再投資型で運用することで、複利効果を最大限に活かすことができます。

ただし、実際の運用では、資産の安全性や流動性なども考慮する必要があります。自身のライフプランに合わせて、適切な運用方法を選択することが大切です。

メリット3-1:退職金控除

確定拠出年金の受取金は、原則として退職所得として扱われ、退職所得控除が適用されます。これにより、受取金に対する税負担を大幅に軽減することができます。ただし、年金形式で受け取る場合は、公的年金等として扱われ、公的年金等控除が適用されます(公的年金等控除については後述します)。

退職所得控除の計算方法

退職所得控除額は、勤続年数に応じて異なります。

  1. 勤続年数が20年以下の場合は、以下の式で計算されます。
    • 退職所得控除額 = 40万円 × 勤続年数
  2. 勤続年数が20年を超える場合は、以下の式で計算されます。
    • 退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 × (勤続年数 – 20年)

この退職所得控除額を受取金から差し引いた残りの金額に対して、税率を掛けて税額が計算されます。なお、勤続年数について、1年未満の端数がある場合は、1年となります。

退職所得と一時所得との比較

退職所得控除が適用されることで、受取金に対する税負担が一時所得に比べて軽減されます。一時所得も退職所得と同様に、まとまった所得を得たときに適用されます。しかし、確定拠出年金を一括で受け取った場合は、一時所得ではなく、退職所得で計算されます。

ここでは、勤続年数40年、受取金3,000万円の場合で、そのメリットを解説します。

  1. 退職所得
    • 退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 × (40年 – 20年) = 2,200万円
    • 退職所得の課税対象額 = (3,000万円 – 2,200万円) ÷ 2 = 400万円
    • 退職所得の税額 = 400万円 × 税率(所得税と住民税の合計)
  2. 一時所得
    • 一時所得の課税対象額 = (3,000万円 – 50万円) ÷ 2 = 1,475万円
    • 一時所得の税額 = 1,475万円 × 税率(所得税と住民税の合計)

仮に税率を20%とすると、退職所得の税額は80万円、一時所得の税額は295万円となります。つまり、退職所得控除によって215万円の税負担が軽減されることになります。

このように、退職所得控除は、確定拠出年金の受取金に対する税負担を一時所得に比べて大幅に軽減する重要な制度です。特に、長期間の勤続によって多額の受取金を得られる場合、そのメリットは非常に大きいといえるでしょう。

メリット3-2:公的年金等控除

確定拠出年金の受取金を年金形式で受け取る場合、公的年金等として扱われ、公的年金等控除が適用されます。これは、確定給付企業年金や国民年金基金の年金受取金でも同様です。

公的年金等控除の計算方法

公的年金等控除額は、年金受給額に応じて異なります。具体的には、以下の式で計算されます。

  • 公的年金等の収入金額 – 公的年金等控除額 = 公的年金等に係る雑所得の金額

公的年金等控除額は、公的年金等の収入金額に応じて、以下のように定められています。

年金以外の合計所得金額が1,000万円以下の場合

受給者の年齢年金額(公的年金等の受給額)公的年金等控除額
65歳以上330万円未満110万円
330万円以上 410万円未満年金額×25%+27万5,000円
410万円以上 770万円未満年金額×15%+68万5,000円
770万円以上 1,000万円未満年金額×5%+145万5,000円
1,000万円以上195万5,000円
65歳未満130万円未満60万円
130万円以上 410万円未満年金額×25%+27万5,000円
410万円以上 770万円未満年金額×15%+68万5,000円
770万円以上 1,000万円未満年金額×5%+145万5,000円
1,000万円以上195万5,000円
※国税庁「No.1600 公的年金等の課税関係

公的年金等の雑所得と一般の雑所得との比較(具体例)

公的年金等控除は、年金受給者にとって非常にお得な制度です。ここでは、一般の雑所得と比較することで、その税負担の軽減効果を具体的に見ていきましょう。

まず、一般の雑所得の計算方法を確認します。一般の雑所得は、収入金額から必要経費を差し引いた金額となります。必要経費には、収入を得るために直接必要とした費用のみが含まれます。

一方、公的年金の雑所得は、収入金額(公的年金等の収入金額)から公的年金等控除額を差し引いた金額となります。公的年金等控除額は、年金額に応じて一定の金額が控除されます。

具体例を見てみましょう。65歳以上の方で、年金受給額が400万円の場合を考えます。

  1. 一般の雑所得:収入金額400万円、必要経費50万円とすると、雑所得は350万円
  2. 公的年金の雑所得:収入金額400万円、公的年金等控除額は330万円なので、雑所得は70万円

この雑所得に対して、所得税率と住民税率を適用して税額を計算すると、以下のようになります。

  1. 一般の雑所得:仮に税率を20%とすると、税額は70万円
  2. 公的年金の雑所得:仮に税率を20%とすると、税額は14万円

つまり、公的年金等控除により、公的年金の雑所得は一般の雑所得に比べて280万円も減額され、税負担が56万円も軽減されることになります。

このように、公的年金等控除は、年金受給者の税負担を大幅に軽減する効果があります。この控除制度がない場合、年金受給者は一般の雑所得と同様の税負担を強いられることになってしまいます。

公的年金等控除は、長年にわたって社会に貢献してきた年金受給者に対する税制上の優遇措置といえるでしょう。この控除制度により、年金受給者は手取り額を増やすことができ、老後の生活をより豊かなものにすることができます。

まとめ

確定拠出年金には、拠出時の所得控除、運用時の非課税、受給時の退職所得控除や公的年金等控除など、様々な税制優遇措置が設けられています。これらの制度を上手に活用することで、加入者は税負担を軽減しつつ、効率的に老後資産を築くことができます。自身のライフプランに合わせて、確定拠出年金を活用していきましょう。

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