投資信託のパフォーマンス評価:基準価額とトータルリターンの違いを解説

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  • 執筆者・監修者:十河 賢
  • 経歴10年以上のウェブライター&ファイナンシャルプランナー
  • CFP保有者・証券外務員二種
  • 宅建士(未登録)・住宅ローンアドバイザー
  • SEO検定1級・エクセルVBAエキスパート

投資信託の運用成果を正しく評価するためには、基準価額とトータルリターンという2つの重要な指標を理解する必要がある。これらの指標は一見似ているように見えるが、分配金の扱い方に大きな違いがある。

この記事では、投資信託のパフォーマンス評価に必要な指標の意味と使い方を、具体的な数値例を用いて解説する。

基準価額とは

基準価額は、投資信託の1口当たりの純資産額を表す指標である。投資信託の純資産総額を発行済み口数で割ることで算出される。基準価額は、投資信託の運用成果を示す重要な指標であるが、分配金の影響を受けるため、単独では運用成果を正確に表さない場合がある。

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専門家のワンポイントアドバイス

基準価額は投資信託の運用状況を把握する上で重要な指標ですが、分配金の影響を受けるため、トータルリターンと合わせて評価することが大切です。

投資信託の基本的な仕組みを知りたい方は、次の記事を参考にしていただきたい。

基準価額の変化

基準価額は、投資信託の運用成果や分配金の支払いによって変化する。

  • 再投資された場合:分配金が支払われると、基準価額は下落する。例えば、基準価額が10,000円で、100円の特別分配金が支払われた場合、基準価額は9,900円に下落する。ただし、保有口数は増えるため、投資総額はほぼ同額となる。
  • 現金で支払われた場合:分配金が支払われると、基準価額は下落する。例えば、基準価額が10,000円で、100円の分配金が支払われた場合、基準価額は9,900円に下落する。しかし、再投資は行われないため、投資家の保有口数は変わらず、投資総額(基準価額×保有口数)は下落します。
  • 運用成果による変化:投資信託の運用成果によって、基準価額は上昇または下落する。例えば、基準価額が10,000円の投資信託が、1年後に1%の運用成果を上げた場合、基準価額は10,100円に上昇する。

【具体例】分配金(普通分配金・特別分配金)が再投資された場合

分配金は、普通分配金の場合は投資信託の収益から、特別分配金の場合は投資信託の元本から支払われる。分配金が支払われると、基準価額は下落する。しかし、分配金が再投資されることで、投資家の保有口数は増加する。

例えば、基準価額が10,000円で、500円の分配金(普通分配金・特別分配金)が支払われ、再投資されたとする。再投資前に1,000口を保有していた投資家の投資状況は、次のように変化する。

時点基準価額保有口数投資総額
分配前10,000円1,000口10,000,000円
分配落ち後9,500円1,000口9,500,000円
再投資後9,500円1,052.63口9,999,985円

再投資後、投資家の保有口数は1,052.63口に増加し、投資総額は9,999,985円となる。これは、分配前の投資総額(10,000,000円)とほぼ同額である。

【具体例】投資信託全体の純資産総額の変化

ただし、普通分配金と特別分配金では、投資信託全体の純資産総額への影響が異なる。

  1. 普通分配金が支払われた場合の投資信託全体の純資産総額の変化:
時点純資産総額
分配前10億円
分配落ち後9億5,000万円
再投資後10億円

普通分配金は投資信託の収益から支払われるため、再投資後、投資信託全体の純資産総額は分配前の水準に戻る。

  1. 特別分配金が支払われた場合の投資信託全体の純資産総額の変化:
時点純資産総額
分配前10億円
分配落ち後9億5,000万円
再投資後9億5,000万円

特別分配金は投資信託の元本から支払われるため、再投資後も、投資信託全体の純資産総額は減少したままである。

このように、個人の投資家にとっては、普通分配金と特別分配金の再投資後の影響に大きな違いはないが、投資信託全体の純資産総額への影響は異なる。普通分配金の場合は純資産総額が回復するのに対し、特別分配金の場合は純資産総額が減少したままになるという点が重要な違いである。

トータルリターンとは

トータルリターンは、投資信託の運用成果を表す指標の一つで、基準価額の変動に加えて、分配金の受取額を考慮したリターンを示す。トータルリターンは、投資信託の購入から売却までの期間における総合的な運用成果を表す。トータルリターンを用いることで、分配金の影響を含めた投資信託のパフォーマンスを評価することができる。

基準価額とトータルリターンの違い

基準価額とトータルリターンの主な違いは、分配金の扱いである。基準価額は、分配金の支払いによって下落する。一方、トータルリターンは、分配金を再投資したと仮定して計算されるため、分配金の影響を受けない。

基準価額の計算式:

基準価額 = (投資信託の純資産総額) ÷ (発行済み口数)

例えば、投資信託の純資産総額が100億円で、発行済み口数が1億口の場合、基準価額は以下のように計算される。
基準価額 = 100億円 ÷ 1億口 = 10,000円

トータルリターンの計算式:

トータルリターン = (売却時の基準価額 + 分配金の累計額) ÷ (購入時の基準価額) – 1


例えば、購入時の基準価額が10,000円、売却時の基準価額が11,000円、分配金の累計額が500円の場合、トータルリターンは以下のように計算される。
トータルリターン = (11,000円 + 500円) ÷ 10,000円 – 1 = 0.15 = 15%

そのため、投資信託のパフォーマンスを評価する際は、基準価額だけでなく、トータルリターンも確認することが重要である。

再投資型と現金受取型のパフォーマンスの違い

分配金を中心に比較する場合、再投資型と現金受取型の投資信託のパフォーマンスは同じように見えることがある。次の表を見てみよう。

投資信託のタイプ購入時の基準価額売却時の基準価額分配金
再投資型10,000円12,000円1,000円(再投資)
現金受取型10,000円11,000円1,000円(現金受取)

両方の投資信託とも、分配金は1,000円で同じである。しかし、売却時の基準価額を見ると、再投資型は12,000円、現金受取型は11,000円となっている。分配金が同じでも、基準価額の変動は異なることがわかる。

ここで、トータルリターンを用いて比較してみると、違いが明確になる。

  1. 再投資型の投資信託のトータルリターン: トータルリターン = (売却時の基準価額 + 分配金の累計額) ÷ (購入時の基準価額) – 1 = (12,000円 + 1,000円) ÷ 10,000円 – 1 = 0.3 = 30%
  2. 現金受取型の投資信託のトータルリターン: トータルリターン = (売却時の基準価額 + 分配金の累計額) ÷ (購入時の基準価額) – 1 = (11,000円 + 1,000円) ÷ 10,000円 – 1 = 0.2 = 20%

トータルリターンで比較すると、再投資型の投資信託のパフォーマンスは30%、現金受取型の投資信託のパフォーマンスは20%となる。分配金が同じでも、トータルリターンには10パーセントポイントの差があることがわかる。

このように、分配金だけを見ていると、投資信託のパフォーマンスの違いが見えにくい場合がある。トータルリターンを用いることで、分配金の受取方法の違いを考慮した上で、投資信託のパフォーマンスを正確に比較・評価することができるようになる。

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専門家のワンポイントアドバイス

基準価額とトータルリターンの違いを理解することは、投資信託のパフォーマンスを正しく評価する上で不可欠です。両方の指標を確認し、総合的な判断を下すことが賢明な投資家の姿勢だと思います。

リターンとリスクの関係については、次の記事を参考にしていただきたい。

ベンチマークとの比較

投資信託のパフォーマンスを評価する際、ベンチマークとの比較も重要である。ベンチマークは、投資信託の運用目標や投資対象に応じて設定される指標である。例えば、日本株式に投資する投資信託の場合、TOPIXや日経225などがベンチマークとして用いられる。投資信託のパフォーマンスがベンチマークを上回っているかどうかを確認することで、運用成果を相対的に評価することができる。

<表> 投資信託でベンチ―マークとなるおもな指標

国・地域指標名概要
日本TOPIX(東証株価指数)東京証券取引所第一部に上場する全銘柄の時価総額加重平均指数
日本日経平均株価東京証券取引所第一部に上場する代表的な225銘柄の価格平均
日本JPX日経インデックス400東京証券取引所第一部、第二部、マザーズ、JASDAQを対象とした時価総額加重平均指数
米国S&P 500米国の代表的な大型株500銘柄の時価総額加重平均指数
米国ダウ工業株30種平均ニューヨーク証券取引所に上場する優良30銘柄の価格平均
米国ナスダック総合指数ナスダック市場に上場する全銘柄の時価総額加重平均指数
欧州EURO STOXX 50ユーロ圏の優良50銘柄の時価総額加重平均指数
英国FTSE 100ロンドン証券取引所に上場する時価総額上位100銘柄の時価総額加重平均指数
ドイツDAXフランクフルト証券取引所の代表的な30銘柄の時価総額加重平均指数
フランスCAC 40パリ証券取引所の代表的な40銘柄の時価総額加重平均指数
中国上海総合指数上海証券取引所のA株とB株全銘柄の時価総額加重平均指数
香港ハンセン指数香港証券取引所に上場する代表的な50銘柄の時価総額加重平均指数
オーストラリアS&P/ASX 200オーストラリア証券取引所の時価総額上位200銘柄の時価総額加重平均指数
カナダS&P/TSX 総合指数トロント証券取引所に上場する全銘柄の時価総額加重平均指数
インドSENSEXボンベイ証券取引所の代表的な30銘柄の時価総額加重平均指数
ブラジルボベスパ指数サンパウロ証券取引所の代表的な銘柄の時価総額加重平均指数
世界MSCI ワールド・インデックス先進国の大型株と中型株の時価総額加重平均指数
世界MSCI オール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)先進国および新興国の大型株と中型株の時価総額加重平均指数

リスクとリターンの観点から、いくつかの主要なベンチマーク指標の特徴を解説する。

  1. 日経平均株価やJPX日経インデックス400をベンチマークとする投資信託は、ある程度のリターンを求める商品である。これらの指標は、日本の株式市場の代表的な銘柄で構成されており、株式市場の動向に連動した運用成果が期待できる。ただし、株式投資にはリスクが伴うため、短期的な価格変動に留意する必要がある。
  2. S&P 500やダウ工業株30種平均をベンチマークとする投資信託は、米国の大型優良企業への投資を通じて、比較的安定したリターンを目指す商品である。これらの企業は、一定の財務基盤と収益力を有しているため、長期的には市場平均以上のパフォーマンスが期待できる。ただし、為替リスクについても考慮する必要がある。
  3. EURO STOXX 50やFTSE 100をベンチマークとする投資信託は、欧州の優良企業への投資を通じて、地域分散を図りつつ、一定のリターンを目指す商品である。ただし、欧州経済の動向や政治的リスクに留意する必要がある。
  4. MSCIワールド・インデックスやMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)をベンチマークとする投資信託は、グローバルな投資を通じて、地域分散と資産分散を図ることができる。先進国と新興国の株式に投資することで、中長期的なリターンを目指す商品である。ただし、各国の経済状況や為替変動の影響を受けるため、リスクも相応に高い。
  5. 上海総合指数やハンセン指数をベンチマークとする投資信託は、中国や香港の株式市場への投資を通じて、高い経済成長を背景とした高リターンを目指す商品である。ただし、これらの市場は規制や政策の変更、経済の不確実性などから、短期的な価格変動が大きい傾向にある。

これらの指標は、各国・地域の株式市場の動向を表すものであり、投資信託のベンチマークとして広く利用されている。投資信託の運用方針や投資対象によって、適切なベンチマークが選択される。

パフォーマンス評価の注意点

投資信託のパフォーマンス評価には、以下のような注意点がある。

  1. 短期的な変動に惑わされない:投資信託は長期的な運用を前提としているため、短期的な変動に過度に反応しないことが重要である。
  2. リスクを考慮する:リターンの高さだけでなく、リスクの大きさも考慮する必要がある。
  3. コストを考慮する:投資信託のコストは、運用成果に影響を与えるため、パフォーマンス評価の際に考慮する必要がある。

投資家は、これらの注意点を踏まえ、総合的な視点から投資信託のパフォーマンスを評価することが重要である。

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専門家のワンポイントアドバイス

投資信託のパフォーマンス評価は、長期的な視点を持つことが大切です。短期的な変動に一喜一憂するのではなく、自分の投資目的に合った投資信託を選び、忍耐強く運用することが成功への鍵となります。

まとめ:投資信託の真の実力を見極める

投資信託のパフォーマンス評価において、基準価額とトータルリターンは不可欠な指標である。基準価額は投資信託の1口当たりの純資産額を示すが、分配金の支払いによって変動するため、単独では運用成果を正確に表さない。

一方、トータルリターンは分配金を含めた総合的な運用成果を表すため、投資信託の実力をより正確に評価できる。また、ベンチマークとの比較を通じて、相対的な運用成績を判断することも重要である。

投資信託の評価は、短期的な変動に惑わされることなく、リスクやコストも考慮した総合的な視点で行うことが、長期的な資産形成の成功につながる。

Q
基準価額とトータルリターンのどちらが重要ですか?
A

基準価額とトータルリターンは、どちらも投資信託のパフォーマンスを評価する上で重要な指標です。基準価額は投資信託の1口当たりの純資産額を表し、トータルリターンは分配金の受取額を考慮したリターンを示します。両方の指標を確認し、総合的に判断することが大切です。

Q
基準価額が下がっているのに、なぜトータルリターンはプラスになることがあるのですか?
A

分配金の再投資効果によるものです。基準価額は分配金の支払いで下がりますが、その分配金を再投資すると保有口数が増えるため、トータルでみるとプラスのリターンになることがあります。

Q
パフォーマンス評価の際に注意すべき点は何ですか?
A

パフォーマンス評価の際は、短期的な変動に惑わされず、長期的な視点を持つことが重要です。また、リターンの高さだけでなく、リスクの大きさやコストも考慮する必要があります。これらの点に注意し、総合的な視点から投資信託のパフォーマンスを評価することが大切です。

執筆者・監修者
十河 賢

◇経歴10年以上のウェブライター&ファイナンシャルプランナー
◇CFP保有者・SEO検定1級・宅建士・住宅ローンアドバイザー

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